「まずは自分で遺言書を書いてみたい」という方に向けて、今回は自筆証書遺言の正しい書き方と、法務局に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」を解説します。
自筆証書遺言の4つの要件
自筆証書遺言が有効であるためには、民法の定める要件をすべて満たす必要があります。
(1)遺言の全文を自書すること(パソコンや代筆は不可)、
(2)作成した日付を自書すること(「令和8年7月吉日」のような特定できない日付は無効です)、
(3)氏名を自書すること、
(4)押印すること(認印でも有効ですが実印が望ましいです)。
なお、法改正により、財産目録の部分に限ってはパソコンでの作成や通帳のコピーの添付が認められています(各ページに署名押印が必要)。財産が多い方にはありがたい緩和です。
よくある「無効・トラブル」の落とし穴
実務でよく見かける問題点をご紹介します。まず、「誰に」「どの
財産を」の特定が曖昧なケースです。「自宅は長男に譲る」だけでは、不動産の特定として不十分なことがあります。登記事項証明書のとおりに所在・地番等を記載するのが確実です。また「譲る」「任せる」などの曖昧な表現ではなく、相続人には「相続させる」、相続人以外には「遺贈する」と書き分けるのが実務の基本です。
次に、遺留分への配慮不足です。特定の相続人に全財産を相続させる内容は、他の相続人の遺留分(法律上保障された最低限の取り分)を侵害し、かえって争いを招くことがあります。さらに、訂正方法の誤りも要注意です。自筆証書遺言の加除訂正は法律で方式が厳格に決まっており、誤ると訂正が無効になります。書き損じたら最初から書き直すのが安全です。
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」とは
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けられる制度が始まりました。手数料は1通3,900円です。宮崎市にお住まいの方は、宮崎地方法務局で手続きできます(予約制・本人が出頭する必要があります)。
この制度のメリットは大きく、紛失・改ざん・隠匿のリスクがなくなること、保管時に法務局が外形的な要件(日付や署名押印の有無など)をチェックしてくれること、相続開始後の家庭裁判所の検認手続が不要になること、そして亡くなった際に指定した方へ遺言書が保管されている旨を通知してもらえる制度があることです。自筆証書遺言を書くなら、この保管制度の利用を強くおすすめします。
ただし注意点として、法務局は遺言の内容が法的に適切か、争いを防げる内容かまでは審査しません。形式は整っていても内容に問題のある遺言書は防げないのです。
シンプルな記載例
イメージをつかんでいただくため、ごく簡単な記載例をご紹介します。
遺言書 遺言者 宮崎太郎は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、長男 宮崎一郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
(不動産の表示:所在・地番・地目・地積を登記事項証明書のとおり記載)
第2条 遺言者は、前条記載の財産を除く遺言者の有する一切の財産を、妻 宮崎花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、妻 宮崎花子を指定する。
令和8年○月○日
宮崎市○○町○丁目○番○号
遺言者 宮崎太郎 印 。
このように、全文を自書し、日付・住所・氏名を書いて押印します。第2条のような「その他一切の財産」の条項と、第3条の遺言執行者の指定を入れておくことが、手続きを円滑にするコツです。
よくある質問(FAQ)
Q. 財産が少なくても遺言書は必要ですか?
A. 家庭裁判所の遺産分割事件の多くは、遺産総額5,000万円以下のご家庭で起きています。財産が自宅と少しの預貯金だけ、というご家庭こそ「分けにくい」ため揉めやすいのが実情です。財産の多寡より「分けにくさ」「家族関係」で必要性を判断してください。
Q. 法務局に預けた遺言書は書き直せますか?
A. 可能です。保管の申請を撤回して返してもらうことも、新しい遺言書を改めて預けることもできます。内容を変更したときは、古い遺言書の扱いを放置せず、撤回・回収しておくと相続時の混乱を防げます。
Q. 封筒に入れて封をしたほうがいいですか?
A. 自宅保管の場合は改ざん防止のため封印が一般的ですが、法務局の保管制度を利用する場合は封のない状態で提出します(法務局で画像データ化されます)。なお自宅保管の封印された遺言書は、家庭裁判所の検認の場で開封する必要があり、勝手に開封すると過料の対象になり得ます。
次回は、より確実な「公正証書遺言」を解説します。
