はじめに
任意後見を検討される方から、非常によく受ける質問があります。
それが、
「任意後見人はどこまでできるのですか?」
「家族の代わりに何でもしてもらえるのですか?」
というものです。
ここは、任意後見制度の中でも特に誤解が多い部分です。
任意後見人は、何でも自由にできる立場ではありません。任意後見契約で定めた範囲の代理権にもとづいて、本人の生活・療養看護・財産管理に関する法律行為を行う人です。また、同意権や取消権はなく、できることにははっきりした限界があります。
今回は、任意後見でできることとできないことを、実務で迷いやすい場面に沿ってわかりやすく整理します。
1 任意後見人の基本は「代理権でできること」に限られる
任意後見契約は、本人が元気なうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、信頼できる人に支援を頼む制度です。
ただし、任意後見人に与えられるのは、あくまで契約で決められた代理権です。任意後見人には任意後見契約で決められた代理権のみが与えられ、同意権・取消権はありません。
つまり、任意後見で大事なのは、
「任意後見人という肩書き」よりも、「契約書に何を入れているか」
です。
ここをあいまいにして契約すると、いざ必要になったときに、思っていたほど動けないことがあります。逆に、必要な行為を具体的に整理して公正証書に落とし込んでおけば、実務上かなり使いやすくなります。
2 任意後見でできること① 財産管理
任意後見人の代表的な仕事のひとつが、財産管理です。
任意後見人の仕事として、自宅などの不動産や預貯金の管理、年金等の受領、税金や公共料金の支払いなどです。任意後見人は契約で定められた代理権の範囲で、財産に関する契約や手続を行うことが前提になっています。
たとえば、次のような行為は、契約内容に入っていれば任意後見で対応しやすいです。
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預貯金口座の管理
-
年金や保険金の受領手続
-
税金、社会保険料、公共料金、施設費用などの支払い
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不動産の維持管理
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一定の範囲での不動産処分や保険解約などの手続
もっとも、不動産や株、生命保険などの重要な財産を処分する場合は慎重さが必要です。重要財産の処分は必要性や妥当性を十分に検討し、特に居住用不動産の処分などは速やかに任意後見監督人へ連絡して助言を受けることが求められます。
3 任意後見でできること② 身上保護に関する契約や手続
任意後見では、財産管理だけでなく、いわゆる身上保護に関する法律行為も重要です。
要介護認定の申請、介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払い、医療契約の締結、入院手続、老人ホーム入居契約なども任意後見人の基本的な仕事です。住居の確保、生活環境の整備、施設の入退所契約、治療や入院の手続などは身上保護の典型例とされています。
ここで大事なのは、
「生活や療養のための契約・手続をすること」
と、
「実際に介護や看護をすること」
は別だという点です。
任意後見人は、介護サービスを契約したり、入院の手続をしたり、費用を支払ったりはできます。
しかし、それは法律行為や事務手続の支援であって、実際に身体介護を担う制度ではありません。
4 任意後見でできないこと① 実際の介護や日常世話そのもの
任意後見制度で特に誤解されやすいのが、この点です。
任意後見人は、本人のおむつ交換をしたり、毎日掃除や食事介助をしたりすることを、制度上の本来業務として求められているわけではありません。任意後見人の仕事は代理権を用いて行うものであり、自分でおむつを替えたり掃除をしたりするような事実行為ではありません。直接介護や日々の見舞いは必ずしも後見人の職務ではないのです。
つまり、任意後見は
「生活を支える契約や法的手続の仕組み」
であって、
「介護そのものを肩代わりする制度」
ではありません。
この違いを理解しておかないと、「任意後見を付けておけば全部安心」と思っていたのに、実際には介護体制や家族の役割分担を別に考えないといけなかった、ということになりがちです。
5 任意後見でできないこと② 医療行為への同意
もっとも質問が多いのが、医療同意です。
結論からいうと、手術や延命治療などの医療行為について、任意後見人が本人に代わって同意・不同意を決めることは、一般に任意後見の職務としては想定されていません。 医師等から求められる医療行為の同意は後見人の職務ではないとされ、手術などの医療行為についての同意・不同意の決定権は原則として後見人等の職務に含まれないと案内されています。
ここは区別が必要です。
任意後見人は、
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医療機関との契約
-
入院手続
-
入院費の支払い
などの契約・事務には関与し得ます。
しかし、
-
手術を受けるか
-
特定の治療をするか
-
医療行為に同意するか
という医療そのものの同意判断は、別問題です。
この点は、任意後見を検討するときに必ず説明しておきたい重要ポイントです。
本人の希望をできるだけ実現したいなら、任意後見だけでなく、事前指示、家族との共有、医療・介護の希望の言語化もあわせて考える必要があります。これは制度の限界を踏まえた実務的な対応です。
6 任意後見でできないこと③ 本人の行為を止めること、取り消すこと
任意後見人には、法定後見の後見人や保佐人のような同意権・取消権がありません。
たとえば本人が任意後見人の了解なく財産を処分してしまっても、任意後見人がその行為を取り消す権限はないと明示されています。必要なら法定後見への移行を検討する必要があります。
この点は、実務上かなり重要です。
たとえば本人が、
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不利な訪問販売契約をしてしまった
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高額な買い物をしてしまった
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よく分からない相手に送金してしまった
という場合でも、任意後見人が当然にそれを取り消せるわけではありません。
つまり、任意後見は万能ではなく、本人保護のために取消権まで必要な段階になれば、法定後見の利用を検討すべき場面があるということです。
7 任意後見で注意が必要なこと 利益相反と重要財産の処分
任意後見で「できること」に入っていても、無条件に自由というわけではありません。
特に注意が必要なのが、利益相反と重要財産の処分です。
任意後見人と本人が利益相反する取引をする場合、任意後見人は本人を代理できず、任意後見監督人が本人を代理します。たとえば、任意後見人が本人に対して債権を持っていて返済を受けるような場面では、構造上の注意が必要です。
また、本人の居住用不動産の処分や、高額支出、重要資産の売却・解約などについては、監督人に速やかに連絡して指示や助言を受けるよう求められています。任意後見では法定後見のような包括的取消権はないぶん、監督人との連携がとても大切です。
8 契約に入っていないことは原則できない
任意後見の実務では、ここが一番大事です。
任意後見人は、契約書に書いてある範囲でしか動けません。 代理権の内容は任意後見契約で定められたものに限られるので、公正証書や登記事項証明書で確認するよ必要があります。
さらに、契約で定めた代理権では足りないと後から分かっても、本人の判断能力が不十分になった後は、新たな公正証書で代理権を広げる方法は使えません。その場合は、法定後見への移行を検討することになります。
だからこそ、任意後見契約を結ぶ前に、
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銀行関係で何が必要か
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不動産管理は必要か
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施設入所や介護契約まで想定するか
-
医療・介護の希望をどう共有するか
を丁寧に整理しておくことが重要です。
9 実務上の理解としては「できること」と「限界」をセットで考える
任意後見は、将来への備えとしてとても有効です。
ただし、制度の本質は法律行為の代理であって、すべてを包括的に引き受ける制度ではありません。任意後見人は財産管理や介護・生活面の手配を行いますが、それは代理権にもとづく契約や手続が中心です。
したがって、任意後見を考えるときは、次のように整理するとわかりやすいです。
できること
預貯金管理、年金受領、支払い、介護契約、施設入所契約、医療契約、入院手続などの法律行為・事務手続。
できないこと、弱いこと
医療行為への同意、直接介護、本人の不利益行為の取消し、契約にない権限行使。
この線引きを理解しておくと、任意後見だけで足りるのか、それとも見守り契約、財産管理等委任契約、遺言、死後事務委任なども組み合わせるべきかが見えやすくなります。
よくあるQ&A
Q1 任意後見人は銀行手続や支払いをできますか?
契約で代理権が定められていれば可能です。
預貯金管理、年金受領、税金や公共料金の支払いなどは、任意後見人の典型的な仕事です。
Q2 任意後見人は介護施設への入所契約をできますか?
契約内容に含まれていれば可能です。
介護サービス提供契約や老人ホーム入居契約などは、任意後見人が関与し得る身上保護関係の法律行為です。
Q3 任意後見人は手術の同意書に署名できますか?
一般に、医療行為そのものへの同意は後見人等の職務には含まれません。
入院手続や医療契約とは分けて考える必要があります。
Q4 任意後見人は本人の勝手な契約を取り消せますか?
できません。
任意後見人には同意権・取消権がないため、必要な場合は法定後見への移行を検討することになります。
Q5 本人の家を売ることはできますか?
契約で権限が定められていれば可能な場合はありますが、居住用不動産の処分は特に慎重な判断が必要で、監督人への連絡・相談が重要です。
まとめ
任意後見で一番大切なのは、
「できることがある」こと以上に、「できないこともある」と理解しておくこと
です。
任意後見人は、
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財産管理
-
介護や施設利用に関する契約
-
入院手続や費用支払い
といった、本人の生活を支える法律行為を行えます。
一方で、
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直接介護
-
医療行為への同意
-
本人の行為の取消し
-
契約外の権限行使
はできません。
だからこそ、任意後見契約は「とりあえず作る」のではなく、
将来どんな場面で、何をしてもらいたいのか
を具体的に整理して設計することが大切です。
任意後見でどこまでできるのか、はっきり知っておきたい
医療や介護、不動産、相続まで含めて整理したい
任意後見だけで足りるのか、他の契約も必要か相談したい
そのような方は、早めに全体像を整理しておくと安心です。
宮崎で任意後見・遺言・相続・終活のご相談なら、かねこ行政書士事務所へ。
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